今回は、東北・宮城を拠点に芸能事務所やイベント企画、マーケティング、ブランディングなどを手がける「epi&company」の松橋穂波さんにお話を伺いました。震災を機にスタートしたファッションショーから始まった道のり、パリコレへの挑戦、そして女性たちが輝く社会づくりにかける思いを語っていただきました。ぜひご覧ください。

プロフィール
株式会社epi&company 代表取締役 松橋 穂波
青森県八戸市出身。株式会社epi&companyではモデルやタレントのマネジメントをはじめ、マーケティング・イベント企画・ブランディングの4つの事業を展開。被災地支援からスタートし、現在は60名を超えるモデルが所属する。
INDEX
「自分にできること」を探した大学時代
ーー会社設立のきっかけについて教えてください。
大学生のときに東日本大震災を経験し、「自分に何ができるのか」を真剣に考えるようになりました。土木作業や技術的支援ができるわけでもなく、自分に何もできないと感じたとき、被災地でファッションショーを開催することを思いついたんです。
最初は被災者を元気づけたいという思いから始めたショーでしたが、参加した女性たちがどんどん成長していく姿を見て、彼女たちが輝ける場所を作りたいと強く思い、芸能事務所として起業する決意を固めました。
ーーなぜファッションショーを選ばれたのですか?
おしゃれやメイクは命に関わるものではありませんが、「前向きに生きる力」を与えるものだと私は思っています。被災者として支援物資でいただいた化粧品がとても嬉しかった記憶があり、その経験が大きなヒントになりました。
インフラや食料の支援はもちろん大切ですが、復興とは「日常の幸せ」が戻ること。その意味で、おしゃれが自由に楽しめる社会を取り戻すことが本当の復興だと感じています。
「所属」と「個性」を両立するマネジメント

ーーepi&companyのマネジメントの特徴について教えてください。
所属モデルは現在約60名。基本的に東北出身の女性たちで構成されています。私たちの特徴は、モデル一人ひとりの「好き」や「得意」を活かすことです。
例えば、バイクが好きなモデルにはバイクショップのイメージキャラクターを、管理栄養士の資格を持つモデルには専門学校の講師の仕事を。それぞれの個性を活かすことで、モデルとしての可能性を広げています。
また、モデルのマネジメントにとどまらず、クライアントの要望や時代の変化に応じて、新たな分野での仕事も積極的に提案しています。人に寄り添った柔軟な対応力も、当社の大きな強みです。
ーーコロナ禍をどう乗り越えられましたか?
大きな打撃を受けましたが、固定費を削減し、新たに「SNS運用代行事業」を立ち上げました。所属モデルたちの発信力を活かして企業のSNSを代行することで、モデルの雇用も守ることができました。
芸能事務所としての業態を維持しながら、モデルのスキルを応用した事業展開ができたのは大きな転機だったと思います。この経験は、今の柔軟な事業構築のあり方にもつながっています。
パリコレ挑戦で得た原点回帰の力

ーー松橋さんご自身がパリコレに挑戦された経緯を教えてください。
コロナで苦境に立たされたとき、自分の原点に立ち返りました。なぜファッションショーを始めたのかと考えたとき、自分が本当はショーに「出たかった」──そんな思いがあったことを思い出したんです。
モデルとしては「身長が足りない」とずっと諦めていた道。でも、やっぱりファッションショーが好きだったし、誰かのためだけでなく「自分自身の好き」にも正直になろうと決めて、改めて挑戦することにしました。
応募したのは、日本人デザイナーが手がけるパリコレブランドのオーディション。身長制限がなく、SNSでの応援投票も審査対象に含まれるという、従来とは異なる新しい形のオーディションでした。
私はこのSNS応援投票で日本一を獲得し、見事パリのランウェイに立つことができました。身体的な基準だけでなく、「誰にどれだけ応援されているか」という“人間としての魅力”も評価対象だったので自分自身に合っていました。
この経験を通して、どんな人にも「自分に合った舞台」があること、自分の「好き」をあきらめないことの大切さを再確認しました。そして今は、その想いを所属モデルたちにも伝えていきたいと強く感じています。
東北だからこそ実現できる挑戦
ーーなぜ東北を拠点に活動を続けているのでしょうか?
生まれ育った地域が好きという気持ちはもちろんありますが、地方だからこそ生まれるつながりや発想があると感じています。東北の子どもたちに「ここでも夢は叶えられる」という希望を伝えたいです。拠点が東京に広がっても、東北の事務所は手放さないつもりです。
さらに、地元・青森県八戸市でも仕事をしたいという気持ちがあり、最近は八戸にも足を運ぶようになりました。地元の発展に貢献することも、自分の原点への恩返しだと感じています。
モデルの新たな選択肢を
ーー今後の展望として考えていることは?
今後は、フリーランスモデルの育成やコミュニティづくりに力を入れたいと考えています。所属という形にとらわれず、それぞれのライフスタイルや目指す道に合った活動ができるよう、選択肢を広げたいです。
また、モデルたちが契約書や請求書などのビジネススキルも身につけ、自立して活動できる環境づくりも目指しています。所属とフリー、それぞれにメリットがあることを伝え、モデル一人ひとりが納得して選べる仕組みを構築していきます。
モデルからブランディングまで、多角的な展開へ
ーーブランディング事業についても教えてください。
芸能の分野で培ったブランディングのノウハウを、地方自治体や観光協会などの地域団体に提供する取り組みを始めました。
例えば、「清純派」「演技派」など、タレントの打ち出し方と同様に、地域や組織にも適した見せ方があります。そういったことを一緒に考え、地域の魅力を引き出すサポートをしていきたいと考えています。
温泉地や観光地のPRにも積極的に取り組んでおり、これまでのタレントマネジメント経験を活かして、地域のブランド価値向上に貢献したいという想いがあります。
「好き」から始まる可能性を信じて
ーー5年、10年後のビジョンについて教えてください。
まずはファッションショーのブランドを立ち上げたいです。「このショーといえばepi」と言われるような存在にしていきたいですね。たとえば、東京ガールズコレクションのように、ファッションショー自体が一つのブランドとなり、多くの人に知っていただきたいです。
次に、海外で活躍するモデルの育成。自身のパリコレ挑戦を通じて得た経験を活かし、次の世代にもチャンスを届けたいと思っています。
そして最後に、モデルたちの活躍の場をさらに広げること。ブランディングやマーケティングの事業にもモデルたちが関われるよう、マルチな活躍ができる土壌を作っていきたいです。
「好きなことを仕事にする」その喜びを、より多くの女性に感じてもらえるような社会の実現を目指して、これからも挑戦を続けていきます。

INFORMATION
epi&company
https://epi-c.co.jp/