今回は、宮城県栗原市でリンゴ園を営む「アイノテ」の伊藤和人さんにお話を伺いました。
会社員として働きながら農業に挑戦するというユニークなスタイルで、地域に新たな風を吹き込む伊藤さん。農業を始めたきっかけから、これからの展望までを語っていただきました。 ぜひ最後までご覧ください。

プロフィール
アイノテ 代表 伊藤 和人
宮城県仙台市出身。現在は栗原市でリンゴ園を経営する「アイノテ」代表。リンゴ栽培のかたわら、会社員としても働く二刀流のライフスタイルで、地域農業の可能性を広げている。独学でミネラル栽培を学び、加工品開発にも意欲的に取り組む。
INDEX
「二刀流」で挑むリンゴ農家という新しい形

ーーまずは自己紹介と、現在の事業内容について教えてください。
宮城県仙台市出身で、栗原市に移住して10年になります。現在は重機のオペレーターとして働きながら、リンゴ園を経営しています。いわゆる二刀流ですね。昨年、引退される農家さんからリンゴ園を引き継ぎ、現在は約155本のリンゴの木を管理しています。
ーーサラリーマンと農業の両立、まさに挑戦ですね。農業を始めたきっかけは?
最初は、たまたまリンゴ園の手伝いを頼まれたことがきっかけでした。収穫を体験して「こんなに面白い仕事があるんだ」と感じて、その後「やってみるか?」と声をかけてもらったんです。当時は知識もほとんどなかったので、毎朝5時に起きて勉強しながら仕事へ行く日々でした。
ーー努力の積み重ねが今につながっているんですね。
そうですね。栽培方法も一般的なものではなく、ミネラル栽培という方法を取り入れています。
農薬をできるだけ抑え、土に自家製の菌を混ぜて育てることで、土壌の力を引き出し、安心して食べられるリンゴを目指しています。
「学びながら育てる」独学の農業スタイル

ーーリンゴ園ではどんな品種を育てているのですか?
現在は9〜11種類ほど栽培しています。主力はジョナゴールドとふじで、どちらも人気の高い品種です。この土地の土壌がリンゴと相性が良く、味に深みが出るのが特徴ですね。
ーー農業を始めた当初、苦労したことはありますか?
全部大変でした(笑)。中でも剪定(せんてい)は一番重要な作業です。古い枝を切り、新しい枝に更新していくんですが、その見極めを誤ると翌年の実のつき方が変わってしまいます。師匠がいなかったので、本や動画を見ながら独学で覚えました。見た目では分からない木の状態を読むのは本当に難しいですが、少しずつ経験を積むことで、自分なりの感覚をつかんできました。
加工と挑戦で広がる「アイノテ」の可能性
ーーリンゴの栽培以外にも、取り組んでいることがあるそうですね。
はい。今年から自家栽培のリンゴを使ったジュースを作り始めました。甘いだけでなく、酸味とのバランスを考えて飲み飽きない味を目指しています。
また、サツマイモの栽培にも挑戦していて、約500坪の畑でシルクスイート、紅あずま、紅はるかの3品種を育てています。昨年、別の農家さんから仕入れて販売したところ好評だったので、「それなら自分でも作ろう」と思ったのがきっかけです。今後は二期作にもトライしていく予定です。
ーー幅広い挑戦をされていますね。
ありがとうございます。農業は自然相手の仕事なので、失敗も多いですが、その中で学ぶことがたくさんあります。毎年の経験が次の年の糧になる。そこが農業の面白さだと思っています。
仲間とともに、地域の農業を支える

ーー農園の運営はお一人でされているのですか?
いえ、スタッフがいてくれるおかげで成り立っています。立ち上げ当初から支えてくれている仲間もいて、本当にありがたいです。みんなが楽しそうに働いてくれるのが一番嬉しいですね。
ーー今後、新たに挑戦したいことはありますか?
来年から、ドローンを使った農薬散布の事業を始めたいと思っています。
農薬というと悪いイメージもありますが、作物を守るためには必要なものでもあります。ドローンを導入することで作業効率も上がり、他の農家さんの手助けにもなる。そうした「地域の支え合い」を広げていきたいです。
「自分が食べたい」から生まれる商品づくり

ーー農園のこだわりや今後の展開について教えてください。
この土地の土壌が良く、味に深みが出るのが特徴です。そこに自分の知識や工夫を加えることで、より質の高いリンゴが育っています。今はリンゴを使ったジャムづくりにも挑戦しています。リンゴ単体ではなく、プラムやオレンジなど他の果実と組み合わせて、甘さを抑えた無添加の高級志向ジャムを目指しています。
ーーなぜジャムを作ろうと思われたのですか?
単純に、自分が朝食べたいからです(笑)。日本のジャムって単体の味が多いですが、海外では果物を掛け合わせたものが主流なんです。そういう新しいおいしさを届けたいと思っています。さらに今後は、果実を乾燥させたドライフルーツや桑茶など、健康志向の加工品にも取り組んでいく予定です。
「人の温かさ」に惹かれて栗原へ
ーー仙台から栗原に移住された理由を教えてください。
最初は「何もないところだな」と思っていました(笑)。でも実際に住んでみたら、人が本当に温かいんです。自然も豊かで、暮らしていくうちに「この街で何かしたい」と思うようになりました。地域の方々に支えられて、今の自分があります。地元への恩返しの気持ちで、日々仕事に取り組んでいます。
若い人が集まる栗原をつくりたい
ーー最後に、今後の目標を教えてください。
栗原に若い人を呼び込みたい。それが一番の夢です。今の栗原はお年寄りかタヌキかクマしかいない(笑)。でも若い人が集まれる場所をつくれば、地域はもっと明るく、元気になると思っています。
まずは自分がそのきっかけを作りたい。リンゴを中心に、若い世代が関われる農業モデルを築きたいですね。農業は地味な仕事に見られがちですが、実はとてもクリエイティブなんです。「挑戦してもいいんだ」という空気を、この栗原から広げていきたいです。

INFORMATION
アイノテ
Instagram:@ainote2006